絵画のなかにいる天使をさがしながら

白根 光夫  坂口 登 Klaus Pfeiffer

会期:2025年4月5日(土) -6月29日(日)
開館時間 :11時~18時30分(入館18時まで)
開館日 :木・金・土・日
休館日 :月・火・水
(展示替および館内メンテナンスのため、会期期間外は休館)
入場料:一般 500円/大高生 400円/小中学生 300円
主催:東京アートミュージアム
企画:一般財団法人プラザ財団

本展について

クラウス・ファイファールの描く天使は、中空に張られたロープのうえに、慎重に左足を下ろそうとする姿で描かれています。飛ぶことを禁止されたかのように、羽根と手首とが結びつけられているためですが、その眼は遥か遠くを見通すことはできず、自身の足元に向けられています。

美術が宗教を離れて以降、天使を描く意味も変化しました。もっとも有名なのはパウル・クレーの描いた天使ですが、それはヴァルター・ベンヤミンに「歴史哲学テーゼ」を書かせ、ヴィム・ヴェンダースに映画「ベルリン・天使の詩」をつくらせることになります。ファイファールの天使も、おそらくは、クレーの天使の系譜にあるのでしょう。しかし、それぞれの天使が伝えるものは異なります。戦争に向かう破局的状況のなかで無力さを噛みしめるベンヤミンの天使、冷戦時代のおわるときに人間社会へと降りてくるヴェンダースの天使、そして、新たな秩序のなかで未来を見通せずにとまどっているファイファールの天使。このファイファールの天使は1989年以降(ポスト冷戦時代)の世界を生きる私たちの姿とつながっているようです。競争原理がむき出しになった世界で、そこから一歩引き下がって、自分の居場所を確かめようとする姿にです。

本展の出品作品からは、共通して、そのような天使の姿を感じることができるように思われます。直接には描かれないとしても、絵画のうちにそうした天使を住まわせているように感じられるのです。それらは、私たちを超越するようにあるのでも、声高に主張を述べるのでもありません。先の見通せない時代を生きる私たちに寄り添うように、慎ましくたたずんでいるのです。

この展覧会で、絵画のなかにいる天使を探しながら、私たちの生きる時代についてもう一度考えてみませんか。

藤井匡(東京造形大学教授)

出展作家

クラウス・ファイファール  /Klaus Pfeiffer (1938-2022) 
ロヴェルト・マッタ  /Roberto Matta(1911-2002)
深尾 庄介   / FUKAO Shosuke(1923 - 2001)
鬼頭 曄    / KITO Akira   (1925  -1994)      
白根 光夫   / SHIRANE Mitsuo (1926 - 2002) 
ヤン・フォス   /Jan Voss(1936 - )
岸田 淳平  / KISHIDA Junpei(1943 - )
坂口 登    / SAKAGUCHI Susumu(1944 - )
堀 浩哉   / HORI Kosai(1947- )
吉永 裕   / YOSHINAGA Yutaka (1948 - )
菊地 敏直  / KIKUCHI Toshinao(1953 - )
クリスティアン・ロートマン  /Christian Rothmann(1954 - )
中津川 浩章  / NAKATSUGAWA Hiroaki(1958 - )
ガストン・デ・ヒベス  /GASTON DE GYVES  (1958 -  )
クラウス・キリシュ  /Klaus Killisch(1959 - )